海の上のバルコニー
2010年のフランス映画。
幼なじみというものは特別な感情があるものらしい。それは、年齢がどれほど重ねられても忘れられないものなの,むしろ年を取ればさらに加速していくものらしい。
さらに、少年期に家庭の事情による別れでも経験した相手なんぞであれば思い出は美しすぎるものになり、いつまでも輝き続けるものになるのかもしれない。
主人公のマルクは優秀な不動産業者であり、美しい妻と素直な女の子がいる。収入の不安もない。
まさに絵に描いたような幸福な家庭を築いている。そこに一つの出会い。それによって人生が変わる。
一人の女性が不動産の買い手として出現する。マルクは、この女性に何故か見覚えがある。そう幼なじみなのだ。自分も相手の事がわかり、相手も自分を覚えていた。ここで、二人の間に何も起こらないわけがない。まさしく少年期に家庭の事情で別れた人だから。
だが、話は見る人の思う方向へは簡単に進まない。そこはフランス映画。
マルクが幼なじみと思った人物がすでに死んでいたという事実が判明する。では、彼の前に現れた人物は誰。そこからミステリアスな展開になる。
マルクの前に現れたのは幼なじみには違いないが、マルクの思っていた人物とは別の人物。マルクもその人物の名を知ることとなるが・・・。
結末に至るところは実に切ない。このテイストはフランス映画でないと出せないかもしれない。まさに人間を描く映画である。
この映画をミステリーとしてみると、期待外れになる。マルクの前に現れた人物が誰かもすぐに観客に示される。なぜ現れたかも。その後の展開も単純である。
ただ、男と女の物語として見れば、そこには人間模様が、人間の感情が描かれている。そう、どうしようもない人間の感情が。
マルクの思いやマルクの幼なじみの感情だけでなく、幼なじみの父親、マルクの妻。それぞれの感情がそれとなくに描かれた作品である。
恋とか、幼なじみとか、そういった昔のことを考える休日の午後になんかに観ると、ちょっと幸せな時間を過ごしたように思うかもしれない。
ちなみに、マルク夫人を演じているのは『シャンボンの背中』にも出ていたサンドリーヌ・キベルラン。
こちらの一方的な感じだが、このところご縁がある女優さんだ。